【ものがたり】
肥後の国(ひごのくに。今の熊本県)の海のなかに、毎日光る物が出て来た。お役人が行って見たら、図のようなものが姿を現した。そして「私は海のなかに住むアマビエというものです。今年から六年のあいだ、どの国も豊作が続きます。だけど、悪い病気がはやります。急いで私の姿を写して、人々に見せなさい。」と言って、海のなかへ帰っていった。この絵は、役人が江戸へ報告してきたものを写したものである。
『解読』
肥後国、海中江毎夜光物出ル所之役人行
見るニづの如く者現ス、私ハ海中ニ住アマビエト申
者也、当年より六ヶ年之間、諸国豊作也併
病流行、早々私シ写シ、人々ニ見セ候得と
申て海中へ入替り。右ハ写シ役人より江戸江
申来ル写也
弘化三年四月中旬
『説明』
〇解読=昔の字を今の字に置きかえて読むこと。
〇アマビエについて書いたものは、京都大学附属図書館(きょうとだいがくふぞくとしょかん)にあるこの瓦版(かわらばん)しかない。しかし、「アマビコ」について書かれた資料があり、それによると、安政五年に江戸にコロリという重たい病気がはやったとき、この絵を印刷したものを売り歩いた人がいるということだ。
また、上半身がお姫さまで、下半身が蛇の妖怪「神社姫」が、同じように豊作や病気の流行を告げたという言い伝えもある。
[参考資料]日本妖怪学大全、小松和彦編、小学館、二〇〇三年
〇京都大学貴重資料デジタルアーカイブ(新聞文庫・絵) リンク先の84枚目が「アマビエ」の絵です。