将来への不安、住み慣れた家から離れた寂しさと不慣れな土地での不安、煩雑な事務手続きなどが重なったことによる疲労、さらに時にプライドを傷つけられることによる腹立ち。それらによって夫婦二人とも睡眠が不安定になって、いつも行く内科で睡眠薬をもらった。それが朝になっても残ることもあってぼんやりすることがあった。しかし、飲まないとまた眠れない。
そんなこんなで眠りが不安定であると、昼間仕事のとき、緊張が半日続かない。基本操作はわかっているといっても経験のない仕事は、集中していないとミスをする。集中するには前日にきちんと眠っていないといけない。周囲に迷惑をかけることはしたくなかった。数日考えて、結局退職を申し出た。
その時引き留めてくださったのは返す返すもありがたかった。訓練期間が終わるときだったので申し訳なかったが、しばらく夫婦二人と猫で、じっとしとこうと思った。思えば被災以降、レオパレスへの引っ越し、毎日の自宅通い、さらに現在の家への引っ越し(その前の家探し、資金の計算)、引っ越しに伴う手続きと休むときがなかった。
十二月初旬で仕事を辞め、今後のことをじっくり考えた。正岡子規が『病床六尺』で言った「悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思つて居たのは間違ひで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事」という言葉がすとんと胸に落ちた。ただし、この言葉が理解できる程度に精神状態が回復したのは、足掛け3カ月であったが、雇っていただいた仕事で意識が再生したことが大きかった(緊張したことで気合が入った)。
もうひとつは浄土真宗の考えである『自力を捨て阿弥陀仏にお任せする』という考えに触れたことも影響があった。