七十歳で図書館アルバイトに応募した(八)

 履歴書用紙をホームページからダウンロードし、顔写真を撮りに行った。めったに顔全体を鏡で見ない(ヒゲをそるときは顎の辺や鼻の下だけ見る)ので、写真のなかの爺さんが自分であることに違和感があった。
 前に、返却本を棚に並べている作業をしている初老の男性(その時はボランティアかと思った。軽い障害があるように感じられたので奇特な人だと思った)を見かけたことがあるが、それ以外こんな爺さんが県立図書館で働いているのを見たことはないな、と思った。
 履歴書では自己ピーアールに努めた。ただし、嘘は書いていない。『志望動機:人生終盤になって、もう一度図書館で働いてみたいと思った』。このことは今までの経緯で説明した。
 『特技:大学であるが図書館業務全般の経験がある』。図書や雑誌の目録(組織化)、学術雑誌の契約と受け入れ、一般的なカウンター業務、理系に偏っているが学生向けのレファレンス、図書館ホームページの構築などなど、一通りはやった。変わった利用者対応もたまにやった。書きながら「十年前のことだけど、嘘じゃないよ」とつぶやいた。
 『読み聞かせの経験がある』。これも本当。毎月、高齢者施設二か所に行き、二、三か月に一度乳幼児相手に読み聞かせや昔話を語っている。『古文書整理手伝いの経験がある』。これも本当。ただし、古文書を普通に読めると誤解されないように手伝いとした。神戸事件に関する古文書は事態がわかるのでかなり読めるが、他はほとんど読めない。
 希望業務は書かなかった。図書館の仕事で一番好きなのは、書架整理だ、次が分類や目録など資料の組織化である。ただ、書架整理はともかくとして、資料の組織化に対し、自分の知識がどの程度使い物になるかわからなかったからである。なにせ十年前の経験である。

 総体的に、自己宣伝の強いやつだなあ、と思われたかもしれないが、アピールしなければとてもじゃないが、面接に届かないと思ったのである。逆効果の可能性もあったが、自分の書きたいように書いて通じなければ仕方がない、と決めた。
 何度も履歴書を書き直した。何度目かに疲れて、大学入学年度を間違えて書いていたら、家内が『ぼけ老人だと思われるよ』と言った。書きながら、また昔を思い出したりした。そして、ポストに投函した。書類審査に通ったら、面接日の連絡が指定日までにあるはずだった。

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